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BLUE ODYSSEY

BLUE ODYSSEY

第7話 委員長の恋 act.41~50

スポルティーファイブ 第7話 委員長の恋. [act.41] 264


こうしてスポルティーファイブの機体は”向こうの世界”へ向かう事になった。

ナターシャ 「ゲートオープン!」

レッドノアの飛行甲板にいつものようにゲート発生機がせり上がって来た。
そしてカタパルトレールの上にはスポルティーファイブの機体が5機そろっていたが………、

神田 「なんやさみしいな。5機の内、2機がオートパイロットやなんて。」

神田は無人のコクピットを見て、そう言った。

神田 「は~~~~~~。」

それからため息をついた。

ナターシャ 「……………………。」

ナターシャは無人の機体”クリスとアンナの両機”を発進させた。
無人ながらそれはスムーズに発進し、ゲートに吸い込まれた。
次は”有人”の番である。

ナターシャ 「現在の時間は『2100年10月12日 AM8:00』。覚えておいてね!」

神田 「それがどうしたん?」

委員長「”時間”よ!”時間”!それを覚えてないとタイムスリップが成功したかどうかわかんないでしょ?!」

神田 「あっ、そう。委員長、よく覚えといてや!」

委員長「……………………。」

ナターシャ 「まずは神田機。発進どうぞ!」

神田 「はいはい、アンナちゃんを救うために行かしてもらいますよ。
俺はアンナちゃんのためなら…………。」

委員長「さっさと発進しなさい!」

神田 「こりゃ驚いた!委員長!なんちゅう言いぐさや?!」







スポルティーファイブの各機は次々と発進した。そしてゲートをくぐって、無事向こうの世界へ行く着く事が出来た。

神田 「はあ~~~~!皆無事か?」

豪 「無事です。本当にスポルティーファイブは大した機体です。いつもそう思います。」

そして宇宙空間を飛行する。

委員長「すぐにドッキングしましょう!」

神田 「あれ?委員長、今日は大丈夫なの?いつもなら………。」

委員長「気が張っているから…………、大丈夫だわ!」

そして5機はドッキングした。ヒューマノイド形態へと姿を変える。

次にノアボックスから棒形型の”タイムトラベル補助装置”が転送されて来た。
神田達の目の前にまばゆい光が発生し、物体が出現する。
これもスポルティーファイブの機体と同じようにゲート発生機を通して、この世界に送り込まれたものである。
それはパイプのような棒状の物体で、長さは約100メートル。
それが20本ほど送り込まれて来た。それをスポルティーファイブの”手”でつなぎ合わせて全長2キロの1本の棒にした。

神田 「なんや?この棒は?」

豪 「これはタイムトラベルの補助を行う装置です。」

豪はコクピットのパネルを操作して、その棒状の物体から強力なシールドを発生させた。

豪 「ふーーーーー!無事機能しました!異常ありません。」

神田 「異常があったら大変やな。」





スポルティーファイブ 第7話 委員長の恋. [act.42] 265



豪 「矢樹博士によれば、この周りを光速に近いスピードで飛行すると、タイムトラベルが可能になるそうです。」

神田 「光速ね。高速道路を走る時の何倍のスピードになるやら。」

豪 「……………………。」

神田 「機体はもつかな?」

豪 「もともとスポルティーファイブの機体の装甲は薄いです。戦車なんかと比べても厚くありません。それを補うのが”防御シールド”です。このシールドがもつ事を祈りましょう。」

クリスに代わって神田がスポルティーファイブの操縦を行う。
もともと神田は[副操縦士]の役割を持っているのだ。

スポルティーファイブは棒状の物体の周りをスピードを増しながら旋回し始めた。
その飛行計算は矢樹によってあらかじめ機体のコンピューターに入力されていた。
スピードが上がり、Gがメンバーの身体にかかる。

委員長「きゃーーーーーー!!」

神田 「大丈夫かいな?ホンマに!」

豪 「まだ光速の1パーセントも出てません。」

神田 「ホンマかいな?!!遠心力もかかりだすんとちゃうか?」

豪 「そっちの方は…、コクピット内に人工重力を発生させてなんとかまかないます!」

目が回るような飛行を続けるスポルティーファイブ。

神田 「”船酔い”せんかな?」

星が線状になって流れ始めた。
左側を見ると、その星々のラインによる縞模様が出来ており、右側には例のパイプ状の物体が映っている。

コクピットはやがて振動に包まれた。
ブーーーーーンという音がどこからとも無く発生する。

神田 「うわあああ!!!」

機体が本格的に振動し始めた。揺れが大きくなっていくのが体感できる。

神田 「うわあああああああああああ!!!」

やがて飛行速度は光速にまで達した。
パイロットには大きな身体的負担がかかっていた。
























そして………、時間はズレた。























3人は気絶した。
























やがてコクピット内のアラームが鳴り、それによって神田と豪は起こされた。

神田 「……………………。」

豪 「減速は終了しました。タイマーによって2時間ほどかかったようです。」

神田 「こんなもんでええの?」

神田はすっかり目を覚ました。何か異様な疲れような感覚が身体に残ってはいたが。
だが神田と豪はまだましだった。委員長は…………………、気絶していた。

神田 「あれ?委員長!クリスとアンナちゃんを助けるとかなんとか意気込んでいたのに。肝心な時にこれかいな?」

豪 「しかたないです。委員長は”女の子”なんですから。」

神田 「委員長が”女の子”?!初耳やな?いつからオナゴになったんや?」

豪 「たしか……、この間神田さん自身が”女の子”と言ってたような気がしますが?」

神田 「知らんで。俺は。」






スポルティーファイブ 第7話 委員長の恋. [act.43] 266



委員長は気絶していたが、シートに身体を固定されていたので、問題はなかった。

神田 「で、これからどうすんの?」

豪 「もう一度ゲートをくぐるんです。くぐって元の時間軸へ戻るんです。」

神田 「また?」

豪 「注意してください。その時、”時間がズレている”と思います。」

スポルティーファイブは自らゲートを発生させた。
そして、その中に突入する。



















機体は元の世界に戻った。
















神田 「成功や!ふう!」

豪 「計器類の表示は全て正常に戻りました。」

神田 「ここまでは、いつも通りやな。」

委員長はまだ気絶していた。神田と豪は無事に戻って来れた事に安堵の表情を浮かべる。

神田 「これで”マッドサイエンティスト”に言われた事は全てやったで。」

豪 「あっ、神田さん。コクピット内の会話は全て録音されてフライトレコーダーに記録されます。めったな事は言わない方がいいですよ。今回の飛行のデータは特に詳細に分析されますから。」

神田 「うわたたた!そりゃ大変やな!!」

神田はうっかり”マッドサイエンティスト”と言った事を後悔した。

神田 「ところで時間は?」

豪 「コクピット内の時間経過は原子時計で約6時間です。
外の世界の時間は現在『2100年10月1日 AM11:50』です。」

神田 「よっしゃーーー!ドンピシャや!やったで!アンナちゃんがデリートされる少し前や!」

豪 「デッ、”デリート”?」

神田 「今すぐアンナちゃんを救いに行くで!」

豪 「ええ!」

神田は急に元気になった。通常の人間なら、これまでの飛行でかなりの心的負担があった筈だが。

神田 「まるで白馬の騎士やな。アンナちゃんの命を救いに来た俺は。
これをきっかけにアンナちゃんは俺に惚れ直すって事になるかも……。」

神田は一瞬妄想を繰り広げた。そして目を閉じて恍惚の表情を浮かべた。

豪 「……すぐに救出に行くんじゃないんですか?」









神田と豪はスポルティーファイブの機体で”火災があった例のビル”に向かった。

豪 「待ってください!スポルティーファイブの機体で現場のすぐ近くまで行くのは止めましょう。下りるんです。この辺に!」

神田 「なんでや?」

豪 「こんな機体でこの世界に干渉するのは良くないですよ。何が起こるかわかりません。
出来ればこの近くに機体を止めて、後は徒歩か車両で行きましょう。
機体をこの世界の人たちや”自分自身”に見せる事は出来る限りやめましょう。」

神田 「でも、”降りる”のは危険やで。俺たちはこの世界の人間やないんや。万が一、機体に戻られへん事になったら?」

豪 「それも……、”運命”です。”もともとそうなるように定められていた”と考えるべきです。その時は素直にあきらめましょう。」

神田 「そんな事、受け入れられるか!俺は、最後にはアンナちゃんと結婚する運命なんやで!こんなところで死ねるかいな!」

豪 「アンナさんと結婚?そんな時間軸、どこかにあるんでしょうか?」

神田 「とにかく機体から下りるのは反対や!」







スポルティーファイブ 第7話 委員長の恋. [act.44] 267


豪はしばらく考えた後…、

豪 「やはり機体で現場に接近する事は影響が大きいと思います。
僕だけ機体から降りて、搭載している特殊車両を使って火災が発生したビルに接近してみます。そしてアンナさんを見つけて引き止めます。
その後でクリス君を呼んでみます。
成功したら……………、2人を連れて機体に戻って来ます。
その後は2人を乗せて元の時間軸に帰りましょう!」

神田 「成功したらいいね。」

豪 「神田さんはできるだけ目立たない場所に機体を待機させておいてください。」

神田 「”目立たない場所”って?」

豪 「高層ビルの屋上とか、高速道路の下とか。」

神田 「わかった。探してみる。
でも、アンナちゃんとクリスには”俺らがタイムマシンに乗って来た事”正直に話すんやろ?」

豪 「そうしないと僕らの存在を信じてもらえないでしょう。この世界には”この世界の僕たち”が別にいるんですから。」

こうして機体には、神田と気絶したままの委員長が残る事になった。

神田 「心配やのう、委員長は。」








豪はスポルティーファイブの機体から特殊車輛を引き出して、地上に降ろした。そしてそれに乗ってビルに向かった。
豪が着いたのは、あの時クリスや豪自身がいた場所の反対側だった。豪は車両から降りて、すぐにビルの内部に入った。
幸い車両には宇宙服が積んであったので、それを着込んだのだ。
目立つのではあるが、これは耐熱素材で作られている。
酸素もタンクがあり常に供給される。火災現場に入っても、これならかなり耐えられる。

豪はビルの中に入ってアンナの姿を探し求めた。
アンナがビルから飛び降りたとされる時間は刻一刻と迫って来た。
豪はあせった。時間的には少し遅れているようだ。まもなくアンナが飛び降りる時間になる。
GPSを使ってアンナを追跡する。やはり屋上に向かっているようだ。

ビルの通路内には煙が充満して来た。

豪 「赤外線モニターに切り替えと。」

この辺りはもう酸素マスク無しではいられないだろう。
屋上は近いが、生身の人間ならこの辺りは危険だ。
周囲の視界は煙のため”0”に無い。
豪も宇宙服の赤外線モニターが無ければ、黒煙しか見えていない筈である。
豪はアンナに接触するために先を急ぐ。

豪 「こんなところで宇宙服が役に立つとは思わなかった。」

やがて煙に切れ目が出来て、豪は煙の充満している区画から出る事が出来た。

豪 「ふう。」

屋上のすぐ下の階まで来た時、豪は通路の先にアンナの姿を見つけた。
アンナは生きていた。アンナは煙を避けるように必死で歩いている。
その姿を見た時、豪はうれしさがこみ上げて来た。やっとアンナに会えたのだ。
それはずいぶん久しぶりの事のように思えた。
豪はアンナに駆け寄って話かけた。

豪 「アンナさん!!」

宇宙服の外部スピーカーから、豪の声が発生した。






スポルティーファイブ 第7話 委員長の恋. [act.45] 268


アンナも豪の姿を見つけた。豪は続けて話した。

豪 「僕について来てください!」

アンナ「でも早くあの人を助けないと!」

その時、ESP能力の高いアンナは一瞬”その豪”に何かの違和感を覚えたが………、それでもすぐに本物の豪だとわかった。

豪 「時間が無いので詳しくは説明できませんが…、僕は”この世界の豪”ではないんです。」

アンナ「………………。」

アンナは豪の言っている意味がすぐにはわからず、キョトンとした。
しかし今そんな事を深く考えている余裕はない。時間が迫って来ているのだ。ビルの下から見えたあの少女は危険な状態だった。

アンナ「私は、あの女の子を助けに行くわ!」

豪 「行くと貴方も死んでしまうんです!」

アンナ「え?!」

豪 「僕は”未来”から来たんです。だから、アンナさんの運命を知っているんです。あそこに行くとアンナさんは転落して死んでしまうんです!」

アンナ「……。」

アンナはショックを受けた。だが………、

アンナ「でも…………、だからと言って……、あの人を見殺しにはできないわ。」

こうしてアンナは豪の制止を振り切って、女の子を助けに行った。
アンナには女の子の存在がはっきり感じ取れている。
アンナの頭の中にはあの少女の叫び声が聞こえ、その肌の温もりさえも感覚として感じていたのだ。
そして、その少女は今アンナから近い所にいる。まだ必死に助けを求めている。
アンナには「行かなくては」という気持ちが強かった。

テレパシーを頼りに、アンナは女の子のいる場所へ向かう。
豪はアンナを追いかけたが、宇宙服を着ているためにその足は遅くなっていた。
アンナに追いつかない。






その時、豪のすぐ前の壁が突然崩れた。
周囲は瓦礫で塞がれ、先へ進めなくなった。
そこで豪は神田に通信を入れた。

豪 「神田さん!アンナさんを引きとめられませんでした。」

神田 「なんやと?!君に任したんが間違いや!こうなったらしかたない。俺が今からアンナちゃんを助けに行く!」

豪 「今からでは神田さんが来るのも危険ですよ!ビルはあちこち崩れ始めているんです。」

神田「じゃあ、スポルティーファイブの機体で行くわ!」

豪 「止めてください!そんな事をしてこの世界に干渉したらどんな事が起きるか?」

神田 「もうこうなってはそんな事言うてられへんやろ?!アンナちゃんの命に代えられへんで!」

こうして神田はスポルティーファイブの機体を使って2人を救出する事にした。
コントロールレバーを操作して機体を上昇させる。

豪 「神田さん、注意してください!パラドックスが起きない様に!
どんな”つじつま合わせ”が起こるかわかったもんじゃありませんから!
とにかくアンナさんが落下しないように、それだけをしてください。他の事はしないで!」

神田 「ああ、やってみるわ!!」

豪 「パラドックスが起こると……………、
アンナさんが何かの別の作用で死んでしまう事も在りえます。充分注意してください。」

神田 「わかった!!!」

それだけ言うと、豪は急いで地上へ降り始めた。








スポルティーファイブ 第7話 委員長の恋. [act.46] 269



神田はスポルティーファイブの機体を水平方向へ発進させた。
そして機体を回り込ませて火災のビルの上空に到達した。
ちょうどアンナのいる屋上の壁面付近でホバリングに移行した。

辺りは真っ黒い煙がもうもうと立ち登っていた。屋上付近の窓という窓が煙突のように真っ黒い煙を吐き続けていた。その煙の向こう側にクリスのシャトルがかいま見えた。
その機体は委員長を吊り下げて地上に戻る所だった。もうまもなく火災現場から少し離れた地上にたどり着く。

神田 「委員長が救出されているという事は……、あの女の子はクリスによって救い出されたということやな!
すると…、後はアンナちゃんだけや!」

スポルティーファイブの機体からの映像は、宇宙服を着ている豪にも中継されていた。
ヘルメットの内側にそれを投影していた豪は、映像を見て神田に通信した。

豪 「確かクリス君の機体が委員長を地上に下ろした直後にビルが崩れたんです。」

神田 「わかってる!」

神田はスポルティーファイブの優秀な透過モニターを使った。煙やコンクリートの壁を透過して、その向こうの物体がシルエットとして映し出されるものだ。
これはクリスが乗っているシャトルに搭載された機器とは比べ物にならない程精度の高い機器だった。

それにより屋上にいるアンナの姿をとらえる神田。
ぎりぎりまで機体をアンナに接近させる。

神田 「慎重にせんと、アンナちゃんにぶつかってしまう。」

その時、不意に屋上が崩れ始めた。

神田 「ぐわあ!崩れ出した!」

豪 「神田さん!落ち着いて!!マジックアームです!」

神田はマジックアームを伸ばして落ちゆくアンナの体をつかむ。
アンナもそれになんとか捕まる。マジックアームの開閉部分はゆっくりと閉じて、しっかりとアンナを包み込む。

神田 「アンナちゃん!絶対に落ちたらアカンで!」

アンナ 「うん。」

とたんに轟音を立ててアンナの背後で床のコンクリートが一気に崩れ落ちた。ビルの屋上部分は大量の粉塵が舞う。それがアンナを襲う。

アンナ「きゃーーーー!!」

神田はマジックアームごとアンナの身体を機体内に収容した。

神田 「ふーーー!」

豪 「神田さん!!!やりましたね!」

スポルティーファイブの機体は火災現場を離れて、高層ビルの屋上へと急いだ。そこなら着陸させても目立たない。
そして、その頃、豪の方は無事地上に降りたった。まさに宇宙服のおかげである。途中何度も火の海を渡り歩いたのだ。
豪はビルを離れ、特殊車両に乗り込んだ。

豪 「うまく行った!次はクリス君だ。」

豪はただちに車両を発進させ、着陸したクリスのシャトルの所まで行く。
そして………、ビルの近くへ戻ろうとするクリスを背後から呼び止めた。






豪 「クリス君!早くこっちへ!」

クリス 「え?」






スポルティーファイブ 第7話 委員長の恋. [act.47] 270


クリスは豪の乗って来た特殊車両を見た。

クリス「スポルティーファイブが出動するなんて聞いてない!」

豪 「詳しい説明は後で!僕は”未来”から来たんです!さあ早く乗ってください。」

クリス 「未来?」

豪 「ひとまず乗ってください!説明は後でします!」

クリスは特殊車輛に乗った。
スポルティーファイブの機体は郊外の小さな山に囲まれた目立たない場所に着陸した。
豪・神田・クリス・アンナが特殊車両の中に集まった。気絶している委員長はまだ機体の中のシートの上にいた。

豪 「よかった。よかった。」

クリス「?」

神田 「わーーーー!!ホンマモンのアンナちゃんや~~!!」

神田は思わずアンナの両手を取って握った。そして喜んだ。
それはいつもの神田のオーバーアクションのようではあるが………、今回は単なる冗談のつもりではなさそうだった。いつもより目が真剣だった。涙目の神田にキョトンとしているアンナ。

アンナ「?」

豪 「実は……。」

豪はこれまでのいきさつを話す。

クリス 「タイムマシン?それで、僕とアンナが……。」

豪 「ええ、消えてしまうんですよ。だから……。」

クリス「それで、僕がその”未来”に行くというのか?」

豪 「ええ、そうです。そうすればクリス君は”戻ります”。」

クリス 「でも…、この世界から僕が”消える”事になる。つじつまは合うのかな?」

神田 「この世界に残っていても、どのみち死ぬんやで!」

クリス「しかし、アンナは今生きている。本来なら、アンナは転落死する筈だったんだろ?」

豪 「待てよ。確か転落したアンナさんの遺体は確認されてない筈です。つまり、”ありません”でした。」

クリス「それなら、アンナは未来の世界に行ってもつじつまは合うような気がする。じゃあ、僕は?」

神田 「そういや、アンタも死体はなかったで。」

豪は神田に注意した。

豪 「もろに”死体、死体”って言わないでください。クリス君は”死んでない”んですから。ただ消えただけです。」

クリス「僕も遺体がなかったんなら…、もともと”タイムマシンが来て運ばれる”運命にあったのかも知れない。」

豪 「その可能性はありますね。」

クリス「でも……、僕がクーガによって消されるのはまだ先の話だろう?今僕が消えたら誰が”この世界”の委員長を守るんだ。」

神田 「そりゃ、誰か代わりがおるやろ?」

クリス「僕はこの世界に残る。」

神田 「なんやて?!」

クリス 「僕が消えたら委員長を守れない!」

豪 「しかし!」

クリスはここに残る事を強く主張した。

クリス「また迎えに来てくれればいい。」

クリスはそう言った。
アンナは納得がいかなかった。





スポルティーファイブ 第7話 委員長の恋. [act.48] 271


アンナ「ここでいっしょに乗って行かないと消えてしまうのよ!」

アンナは"このままではいずれクリスが消える"事を理解したのか、必死に訴えた。

クリス「…………わかった。
では”僕が消える直前”にまた来てくれないか?その時に乗ろう。それでも、つじつまは合う。」

神田 「そんなバカな!」

豪と神田はスポルティーファイブでのタイムスリップがいかに困難で危険なものかをクリスに説明した。それを聞いて、結局クリスもいっしょに戻る事に決めた。
それでやっと豪も神田も胸を撫で下ろした。

豪 「ふう………。」

神田 「はああああ~~~~。」









スポルティーファイブの機体は山間まで飛んで、そこに一時的に身を隠した。
委員長はいまもって意識がない。クリス・神田・アンナ・豪の4人は搭載している特殊車輛の中に集まって食事を取った。

神田 「こうしてまたアンナちゃんといっしょに食事が出来るなんて!」

神田は涙ぐみながら、持って来たおにぎりをほおばった。

神田 「ああ、うまい。」

アンナ 「…………。」

豪も今日は最高においしい食事だと思った。

豪 「最初から、こうする”運命”だったのかも知れませんね。
もともと僕らが”この世界のクリス君を収容したためにクリス君は消えた”。
つまり、”クーガがクリス君を消したのではなく”僕らが消したのかも知れません。」

クリス 「そうかも知れないね……………。
ともかく今回はありがとう。君たちのおかげでまた5人そろったわけだね?
もっとも僕は自分が消えた事は知らないけど。それにアンナが消えた事も。
でも良かった。さあ、戻ろう。」

こうして、2人を無事救出する事が出来た。
スポルティーファイブは現時点へと戻る事になった。
”未来”への旅はここに来た方法と同じプロセスを踏まねばならず、大変な手間だった。
それでも無事、元の時間軸へ戻る事に成功した。








帰艦すると、委員長はすぐにメディカルセンターに運ばれた。
結局、委員長はタイムトラベル中に目を覚ます事はなかった。
矢樹と郷田指令が待っており、皆を歓迎した。

矢樹 「お帰り。無事で良かった。タイムトラベルは貴重な経験だ。
ところで豪、神田。この世界へ戻って来て何か変化はないかね?」

豪 「え?」

矢樹 「変化があったかどうかは君達に聞かねばわからない。こちらでは感じ取れない。
”消えた人物や存在しなくなった機関”はないかね?」

豪 「見た感じ…………、変わりありません。」

矢樹 「そうか。それは良かった。」

郷田指令「これで全て元に戻ったという事だな?」

豪 「そうですね。ノアボックスも”ちゃんと”存在してますし。」

豪はそう言って周りを見回した。皆はにこやかに笑った。

矢樹 「やはりアンナとクリスが消えたのは、我々のタイムトラベルが原因のようだ。
だから、君たちがこの時間軸にいても差し支えない。問題あるパラドックスは起きないと思う。
ノアボックスが消されてないのなら、それはクーガが消す事が出来なかったか、もしくはまだ実行されてないという事だ。」

豪 「そうですか。」

矢樹 「それとも”時間の流れ”というものはやはり変えられないものかも知れない。」

郷田指令「まあ、なんにしても、今はそれだけしかわからんという事だな。」








スポルティーファイブ 第7話 委員長の恋. [act.49] 272


クリス達はメディカルセンターの委員長を見舞いに行った。
委員長は病室の上で目を覚ましていた。

委員長「クリス君!」

委員長の目は潤んでいた。
委員長にはクリスが生きていたという事がなによりの喜びだった。
神田が早々に余計な突込みを入れる。

神田 「委員長は楽でええな。寝てるだけで!
俺達だけ働いてさーーーー。はあ~~~~~、男は辛いねえ。
あーーーーー、ゴメン、ゴメン!そういえば委員長も”男”でしたね。」

神田はいつものように委員長をからかった。神田は委員長をからかうのが”なにより”の楽しみみたいだった。委員長は今日はいつもより元気が無かったが、それでもこの少々行き過ぎたジョークにはお怒り気味だった。

委員長「くくくく……。」

でも、神田は面白がって続ける。神田は委員長の反応を見るのが好きらしい。

神田 「それにしても委員長はやわな身体やな。まるで”オナゴ”みたいや。
”男”はもっと鍛えとかなあかんで。
この前はクリスを一日中連れ回しても大丈夫やったのに、おかしいな?
わざと休んでたのとの違うか?」

委員長「あーーーーーーー!!そっ、その事はーーー!!!」

神田 「ホンマ、”オナゴ”って不思議な生物やなあ。
というより都合のいい時だけ元気になるんと違いますか?
あっ、ゴメン、ゴメン。また間違えた。委員長は"男"でしたね?」

と言って神田は笑った。
委員長は真っ白なシーツを握りしめてマジに怒り出した。顔つきが変わり始めた。
これはいけないと、豪が止めに入った。

豪 「神田さん!もうその辺で!委員長は病人なんですよ。」

神田 「まあ、今回の件も貸しにしとくぜ!委員長!埋め合わせは絶対にしてや!
あっ、クリスもよう覚えときや!1回貸しやから。
あっ、アンナちゃんの方は別にいいですから。」

委員長「くくく……。」

委員長は興奮気味になった。
それでクリスと豪は早々に病室から出る事を提案した。
こうして病室からクリス・アンナ・豪・神田は出て行った。
不意に1人になる委員長。皆が行ってしまうと今度はさびしくなった。
あんな神田の冗談でもなくなると気がめいる。
シーンとした病室には今日は他に誰もいなかった。

それに委員長は今回の件でまたクリスとアンナの距離が縮まったような気がしてならなかった。気がめいっているのか、どうしてもそんな感情が沸き起こってしまう。

委員長「はあ……。私ってダメね。そんな事ばかり考えて。」

委員長はその後病室のベッドに横になった。
ここはレッドノアの中。警備が行き届いているので安心して眠る事が出来る筈だ。
今日はクリス・アンナ・神田・豪もここのそれぞれの自室に泊まっていく事になっていた。

とにかく5人、また元どうりそろったのだ。
今日はいつもよりはよく眠れそうだった。

1時間ほどして気が落ち着いて、やっと委員長は眠りについた。
























…………そして、深い眠りに落ちていった。

















スポルティーファイブ 第7話 委員長の恋. [act.50] 273
















委員長「……。」

















委員長はふと目を覚ました。

たっぷり寝たのか、それとも少ししか寝ていなかったのかわからない。とにかく目を覚ました。
周囲はうっすらとした暗がりだった。よく見ると頭上には見慣れた天上が広がっていた。
委員長はそこが自分の家の”自分の部屋”である事に気が付いた。
自宅のベッドで寝ていたのだ。

委員長「どうして……、家にいるのかしら?私は……。」

委員長は確か別の場所で寝ていたような気がした。
しかし、はっきりとは思い出せない。どうしても記憶がどこかで途切れているような感じがした。まだ頭がぼやけているせいだろうか?
時計を見ると、


*********************************************

AM 6:14

*********************************************

だった。





委員長はそのまま少しだけベッドの中にいた。
そしていつもの時間が来ると起き出して、登校する準備を始めた。
学生鞄を出して薄いノートパソコンをそこに詰めた。
そして教科書、ノート、筆記具、携帯電話を入れた。

すっかり身支度が整うと、1階に下りて朝食を取った。
それは母親が用意してくれた朝食で、トーストとサラダにスープといった簡単な物だった。
委員長は朝はこれぐらしかお腹に入らないし、急いで食べられる物の方が良かった。

母と少し会話した後、家の玄関を開けていつもの通り登校を始めた。青葉ガーナ学園へ。
だが今日の委員長は何かの違和感を感じながら学校へと向かっていた。
しかし、それが何かわからなかった。



天気は申し分ない快晴で、雲の量も程よく、空の広さが強調されていた。





やがていつもの青葉ガーナ学園が見えた。
ここの校舎は美しい。
校門は広々としていて、もうあの黒い移動式の門は開けられていた。
いつもよりこの時間に登校して来た生徒の人数が少し多い。皆早朝のクラブ活動をする生徒達のようだ。

校門から奥の校舎までのレンガ敷きの通路とその周りの芝生は宝石のように輝く水滴がついていた。グランドの土の色も綺麗だった。いつもの景色だった。何も変わりはない。

委員長はレンガ敷きの通路の上を歩いた。だが、自分のお気に入りのこの場所に立っても委員長はなぜか今日に限って気分は良くならなかった。

委員長「なにか………、違うような気がするわ。」





広々とした下駄箱を通り、長い廊下を歩いて自分の教室に向かった。
そして教室に入る。変わり映えしないいつもの教室の風景。
まだ少し時間が早いせいか生徒の数はまばら。
委員長の姿を見つけて2~3人の女子が挨拶して来た。
委員長はそれに答えてから自分の席に座って、鞄を置いた。




教室内には神田、豪がいた。
委員長は2人が楽しそうに喋っている所へ行った。神田、豪も委員長を歓迎した。

委員長「おはよう。豪君。神田君。」

神田 「委員長!挨拶だけじゃなく、たまには俺をデートに誘おうという気はないんかいな?」

委員長「はん?朝から何をのたまわっておられるんですか?まだ頭が半分起きてないんじゃないですか?」

神田 「くくく……。いつもながら、厳しいジョークですなあ、委員長は。」

この神田と委員長のいつもの漫才を見て豪は笑っていた。











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